独立行政法人国立病院機構指宿医療センター

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脳卒中専門施設について

血栓溶解療法(t-PA療法)と脳血管内治療

 脳梗塞に対する血栓溶解療法、および脳血管内治療とはどのようなものでしょうか。
 脳卒中になってすぐにこのような治療を受ければ、症状が劇的に良くなる可能性があるとして注目されています。ただし全ての患者さんに行うことができる訳ではありませんし、稀ながら逆にかえって悪くなる可能性もある治療法です。


 ここでは、当院での実際の症例も交えてこれらの治療法について説明します。


1.血栓溶解療法とは

 脳梗塞は、脳に行っている動脈が詰まることによって血液が流れなくなり、脳に酸素や栄養などが届かなくなってしまい、脳細胞が死んでしまう病気です。

図1 脳梗塞のいろいろ

 それでは動脈をふさいでいるものを溶かしてしまえば、血液が再び流れるようになって脳梗塞が治るのではないか? このような考えから始まったのが血栓溶解療法です。
 この溶かすための薬がt-PA(アルテプラーゼ)です。平成17年10月に承認を受け、以後日本でも治療ができるようになりました。



t-PA(アルテプラーゼ)静脈注射による血栓溶解治療法

 これまでは進行予防、もしくはリハビリテーションに頼らざるを得なかった脳梗塞治療を劇的に変えた、画期的かつ非常に優れた治療ですが、問題もいくつかあります。



①脳は血液がこなくなると、血液が流れない中心部分からすぐに死に始めてどんどん梗塞が広がっていきます。このため遅くとも4時間半以内に治療を開始する必要があります。治療が遅れて、脳や血管が傷んでしまった後に血液が流れ出すと、効果がないだけでなく、今度はもろくなった血管が破れたりして出血してしまい、脳内出血を起こして逆に症状が悪くなったり、最悪命に関わる状態になってしまう危険があります。

②t-PA(アルテプラーゼ)は、脳梗塞の血管だけでなく全身に作用しますので、他に出血しやすい場所があるとそこから出血する危険があります。

2.血栓溶解療法の実際

当院で行われた血栓溶解療法の実際例を紹介します。

症例:73歳男性
主訴:ふらつき、左片麻痺
現病歴:午後6時入浴後、自分で服が着られなかった。めまい症状もあった。その後何とか夕食をとるも左手で茶碗を落とす症状などがあり、自家用車にて20時00分当院来院。診察すると、意識が低下、ろれつが回らない、左半身の麻痺などの症状が強くみられた。
直ちにMRI検査を行ったところ、右の大脳に流れる大きな血管(中大脳動脈)が閉塞していたため、血液検査などを行った後、t-PAを投与した。

○の中の動脈に血液の流れが戻っています。
図3 血栓溶解療法前後のMRA



図4 血栓溶解療法後のMRI



 当院ではこれまでに300例以上の患者さんにt-PA治療を行い良好な成績を得ています(2018.3.現在)


3.脳血管内治療;血栓回収療法とは

 血栓溶解療法(t-PA静注療法)はこのように非常に優れた治療法であり、点滴で使用できて特別な機器を必要としない、医療者の人員は少なくても施行できる、治療開始までの時間が短くてすむ、などのメリットがある一方、4時間半以降の患者さんには使用できない、いろいろな禁忌事項がある(下記)、薬剤を全身投与するために全身的な出血性合併症の危険性もある、などの問題点もあります。
 またその他にも、大きな血管で閉塞している場合には効果が得られにくいこともわかってきました。これまでの報告では、t-PA治療による再開通率と転帰良好となる率はそれぞれ内頸動脈閉塞患者さんで14.3%と20%、中大脳動脈の近位部(根本)閉塞患者さんで25%と20%、中大脳動脈の遠位部(末梢側)以降での閉塞患者さんで80%と70%とされています。
 このため、内頸動脈や中大脳動脈の根本、または脳底動脈などの大きな血管で閉塞している患者さん等に対して、t-PAの効果が得られなかった場合、もしくはt-PA治療の適応とならなかった場合(発症から4.5時間以上経過している場合やt-PAの禁忌事項にあてはまる患者さんなど)に、血管内治療により血管を再開通させる方法が近年さかんに行われるようになっています。
 血管内治療とは、足の付け根にある太い動脈に針を刺し、そこからカテーテルという細い管を脳内の血管まで挿入して、血栓を溶かす薬を直接血栓内に投与したり、詰まった血栓を取り除いたり(血栓回収)する治療です。原則として発症から6~8時間までの患者さんがこの治療の適応となりますが、8時間以上経過している場合や発症時間がはっきり分からない場合でも、MRIなどの検査結果から脳梗塞に至っている範囲が比較的狭いと考えられる場合や、脳血流が比較的保たれていると考えられる場合にはこの治療を考慮することもあります。
 脳梗塞が起こった早期に現在行われている血管内治療の中心は、太い血管が詰まった場合に行う血栓回収療法です。この方法としては、国内では2010年に初めて認可されたMerci(メルシー)という血栓回収機器に続き、2011年に血栓吸引型の回収機器であるPenumbra(ペナンブラ)システムが認可され、さらに2014年7月にはステント型の血栓回収機器であるSolitaire(ソリティア)とTrevo(トレボ)が登場しています。
 最近の報告では、t-PA単独での治療に比べて、t-PA治療に加えて血栓回収療法を行うと非常に高い頻度で再開通がえられ、転帰も回復する可能性が大幅に改善することが示されています。
 なおこれらの血栓回収療法のほかには、さらに末梢の血管が閉塞している場合に血栓溶解薬(ウロキナーゼなど)を血栓内に投与して血栓を溶かす方法や、堅い血栓で詰まっていたり動脈硬化によって細くなったり詰まったりしている場合にバルーンカテーテルなどを使って血管を広げる治療法もあります。


4. 血管内治療(血栓溶解療法)の実際

症例:67歳男性
主訴:倒れているところを発見された
現病歴:17時30分に外出後、17時40分に倒れているところを発見された。直ぐに救急要請され、18時38分に当院搬送。意識障害、重度の失語症、右手足の高度麻痺がみられ、t-PA禁忌事項には当てはまらなかったため、発症から104分(病院来院後36分)でt-PA投与を行った。
しかし血管の再開通や症状改善が得られなかったため、ソリティアを用いた血栓回収療法を選択。この結果、発症から173分(病院来院後105分)で完全な血管再開通が得られた。


図5:血栓回収療法による血管再開通
左:治療前の血管造影検査所見。左中大脳動脈の根本で閉塞している(矢印部分)
中上:治療に使用した血栓回収機器(ソリティア)
中下:回収された血栓
右:血栓回収療法後の血管造影検査所見。閉塞部は完全に再開通した(矢印部分)

 この患者さんは血栓回収療法後、急速に症状は改善し、最終的には軽度の言語障害が残る程度まで回復しました。
 ステント型血栓回収機器が認可されたのち、当院でも積極的にこの治療に取り組んでおり、非常に高い再開通率と症状の改善を経験しております。


5.血栓溶解療法や血管内治療を受けるためには

 とにかく一刻も早く専門病院を受診することです。
・血栓溶解療法は遅くとも4時間半以内に、血管内治療は8時間以内に治療を開始する必要があります。
・ただしt-PA治療も血管内治療も、効果を上げるために最も重要なことは一刻も早く治療を開始することです。治療可能な時間内であっても開始時間が遅くなれば遅くなるほど症状改善の可能性が低くなります。
・少しでも早く病院に救急受診し、少しでも早くこれらの治療を開始することにより、症状回復の可能性が高まります。
・特に大きな血管が詰まった重篤な脳梗塞の患者さんほど、このような先端医療を受けるメリットが高まります。脳梗塞の症状がみられたら一刻も早く救急要請し、t-PA静注療法および血管内治療を含む先端医療が可能な専門施設を直接受診することが勧められます。

なお、次のような方は血栓溶解療法を受けられません。
【血栓溶解療法(t-PA静注療法)の禁忌】
既往歴
・非外傷性頭蓋内出血既往
・1ヶ月以内の脳梗塞(TIAは含まない)
・3ヶ月以内の重篤な頭部脊髄の外傷あるいは手術
・21日以内の消化管あるいは尿路出血
・14日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷
・治療薬の過敏症
臨床所見
・くも膜下出血(疑)
・急性大動脈解離の合併
・出血の合併(頭蓋内出血、消化管出血、尿路出血、後腹膜出血、喀血)
・収縮期血圧(降圧療法後も185mmHg以上)
・拡張期血圧(降圧療法後も110mmHg以上)
・重篤な肝障害
・急性膵炎
血液所見
・血糖異常(<50mg/dL、または>400mg/dL)
・血小板100,000/mm3以下
・PT-INR>1.7
・APTTの延長(前値の1.5倍以上[目安として40秒]を超える)
CT/MRI所見
・広汎な早期虚血性変化
・圧排所見(正中構造偏位)


6.血栓溶解療法や血管内治療はどこでもできるのでしょうか?

 血栓溶解療法を安全に行うために次のような指針が示されています。勿論当院は全てクリアーしています。
 脳卒中診療体制の整備:以下の日本脳卒中学会の提唱する施設基準を満足する施設で治療を実施することが望ましい。

1.CTまたはMRI検査が24時間可能であること
2.十分な人員と設備(stroke care unitまたはそれに準ずるもの)を有すること
3.脳神経外科的処置が迅速に行える体制が整備されていること
4.治療実施担当医が日本脳卒中学会の承認する講習会を受講していること。急性期脳梗塞の診療実績が十分(発症24時間以内の急性期脳梗塞を年間50例程度以上診療している)である場合、本薬使用 前の講習会の受講を必須とはしないが、できるだけ早期に講習会を受講することが勧められる


 さらに血栓回収療法は、血管造影検査という手技に加え、実際に詰まっている脳内の細い血管までカテーテルを安全に進めなければならず、特別な手技が必要になります。
 手技に精通して熟練している必要があり、実施に当たっては専門の講習を受ける必要もあります。また治療に携わる人数も多く必要です。
 このため、血栓溶解療法(t-PA静注療法)よりもさらに施行できる施設は限られます。最近では近隣の施設でt-PA静注療法を行いつつ、さらに血栓回収療法が可能な高度医療機関に転送するシステムの構築も進みつつあります。
 当院では血栓回収療法をはじめとした血管内治療にも積極的に取り組んでおり、24時間365日いつでもこの治療が行える体制を整えております。

 脳梗塞治療は近年劇的な進歩を遂げ、とにかく早く専門的な治療を開始することにより、症状も劇的に改善して後遺症を激減させうる時代になってきています。とはいえ最も重要なことは予防ですのでまずは脳梗塞予防に心がけるとともに、万一脳梗塞が疑われる症状が突然出現したら、一刻も早く脳梗塞の高度専門治療が可能な施設を救急車で受診することをお勧めします。

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