〒892-0853 鹿児島県鹿児島市城山町8番1号


がん免疫細胞療法(樹状細胞免疫療法)

 当院は、鹿児島医療圏における地域がん診療拠点病院として、消化器内科、外科、婦人科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、放射線科、血液内科領域の治療を担当し、各診療科で手術、放射線療法、化学療法(移植を含む)における標準的治療を実施できるよう整備してきました。これらの治療によって、多くの患者さんが病気を克服してこられました。

 一方、平成20年の国内での死亡数・死亡率(人口10万対)を死因順でみると、第1位はがんを代表とする悪性腫瘍で34万2849人(272.2)、第2位は心疾患18万1822人(144.4)、第3位は脳血管疾患12万6944人(100.8)となっています。この中で悪性腫瘍は、昭和56年以降死因の第一位となり、平成20年では全死亡者の30%を占めています(厚生労働省平成20年人口動態統計月報年計)。このことは、日本人の約3人に1人が悪性腫瘍でなくなっていることを意味します。別の言い方をすると、先に述べたような標準療法で治す事ができない悪性腫瘍の患者さんが、多数おられる現状を示しています。

 私たちは、手術、放射線療法、化学療法の標準的治療に免疫療法を加える事により、悪性腫瘍の克服ができないか検討を重ねてきました。この治療を実施するためには、高品質な細胞を無菌的に培養することができる施設と体制が必要です。高度の無菌環境にある細胞培養室を整備するとともに、この領域で先端的活動を行っているテラ社と提携し、テラ社が有する東京大学医科学研究所細胞プロセッシング寄附研究部門(2008年8月終了)で確立された技術・ノウハウを導入し、同時に当院倫理審査委員会の承認をえ、平成21年からWT1とよばれるがん抗原と樹状細胞を用いたワクチン療法による治療研究をスタートさせました。

樹状細胞とがん抗原

 人間には生まれつき免疫とよばれる働きが備わっており、体の中に侵入した細菌やウイルスを、体の中から取り除く働きがあります。予防注射もこの原理を応用したものです。例えば「はしか」の予防注射を受け、はしかに対する免疫ができると、はしかのウイルスは免疫を持った人の体の中で増える(「はしか」の症状を出す)ことはできなくなります。もう少し詳しく説明すると、人の身体の中でウイルスや細菌による細胞内感染が起こると、感染した細胞の表面に感染を受けている印(抗原)が出てきます。身体の中には、この印(抗原)を持った感染細胞をみつけ、白血球の一つであるTリンパ球に教える働きをする細胞(その働きから抗原提示細胞と呼ばれます。樹状細胞はその代表です)がいます。Tリンパ球と抗原提示細胞は、共同でこの印を持った細胞を身体の中から取除く働きをしています。一方、これまでがん細胞特有の印(がん抗原)はないと考えられていましたが、最近がん抗原がいくつか発見されました。その中でもTリンパ球に見つけられやすいがん抗原の一つとされているのが、WT1たんぱくというがん抗原です。WT1たんぱくは、小児の腎臓がんであるウイルムス腫瘍の原因遺伝子(ウイルムス腫瘍遺伝子 WT1遺伝子)によって作られるたんぱくです。

大阪大学医学部の杉山教授らのグループの研究から、ウイルムス腫瘍以外の多くのがん細胞でもWT1遺伝子が存在し、WT1蛋白が作られていることが明らかとなってきました。

 Tリンパ球にがん抗原を教えているのが、樹状細胞とよばれる細胞です。樹状細胞は、皮膚をはじめとして体の多くの場所に存在します。そしてたくさんの枝を持つ木のような形をしていることから樹状細胞と名付けられています。樹状細胞は、細菌、ウイルスあるいはがん細胞などを本来体の中にあるべきものではないと感じて自分の中に取り込む働きがあります。取り込んだ後、これらを細かく分解し、自分の細胞の表面にその断片(この断片をペプチドとよびます)を出します。このようにして、がん抗原(ペプチド化されたもの)も樹状細胞の表面に現れてきます。がん抗原(ペプチド)を人工的に合成することができれば、そのペプチド化抗原を大量に加えることにより、樹状細胞の表面に出てきたペプチドの部分を合成ペプチドに置き換えることができます。

図1

 樹状細胞は、体の中を自由に動き回ることができ、その一部はリンパ節に入ってそこにとどまります。合成ペプチドで処理された樹状細胞はリンパ節に入いたあと、がん細胞を攻撃するTリンパ球が接触すると、樹状細胞はそのTリンパ球に対して、樹状細胞表面に出ているがん抗原が身体に対して悪さをするものであることを教え込み、それを認識したリンパ球は、体中を回ってそのペプチドを持っている細胞、すなわちがん細胞を狙って攻撃します。樹状細胞にがん細胞を取り込ませてがん抗原を細胞表面に表現させる代わりに、人工的に合成したペプチド化したがん抗原を大量に加えて、樹状細胞を働かせることもできます。

図1

樹状細胞とがん抗原

 血液中には樹状細胞の元になる細胞が存在することが知られていますが、最近の技術の進歩により、この樹状細胞を効率よく試験管の中で増やすことがきるようになりました。試験管内で増やした樹状細胞に、人工的に作ったがん抗原ペプチドを結合させて、それをリンパ節の近くに注射することにより、がん細胞を殺す活性化Tリンパ球を誘導させます。これががん抗原を用いた樹状細胞がん免疫療法であり、従来の治療では効かないがんに対し、治療効果を得ようとするものです。

 但し、この治療がうまくいくための条件があります。樹状細胞の表面には主要組織適合遺伝子複合体抗原(ヒトではヒト白血球抗原 HLA)とよばれるたんぱくが存在し、このたんぱくを器としてこの器の中に合成がん抗原ペプチドが入る必要があります。患者さんのHLAの型とがん抗原ペプチドの型が合っていないとこの治療は行なえません。従ってこの治療ができるためには、多くの場合、患者さんのHLAがあるきまった型である必要があります(一部の治療ではHLAの型に無関係に行なう事ができます)。

 樹状細胞を用いたがん治療は、他に治療法がなくなってしまった進行・再発癌の患者さんにおいて、25-50%の治療効果(腫瘍の消失、縮小、進行停止)が報告されています。しかし、治療効果および延命効果においてまだ正確な成績が出ていない治療法です。今回の治療は、基本的にはがん抗原ペプチドを結合させた樹状細胞を用いたがんに対するがんワクチン療法の安全性をあらゆる面からチェックすることが目的の一つです。一方で、すでに説明したように治療効果も期待できる治療法と考えています。

方法

 まず、それぞれの患者さんに合う合成がん抗原ペチドがあるかどうか、腫瘍マーカーのデータやがん組織のもつ蛋白等を特殊な方法(免疫染色など)で調べます。人工抗原が見つかった場合は、次にその人工抗原があなたの白血球の型(HLA)と相性が合うかを確認します(人工抗原の種類によってはHLA検査の必要がない場合もあります)。

 次に、成分採血という方法で、患者さんの血液から白血球を取り出します。鹿児島では、天文館の献血ルームや鴨池新町の赤十字血液センターで一般の献血者の方から血小板などの成分採血(成分献血)行なっています。この成分献血と同様の器械、方法を用いて行ない、必要のない白血球(好中球)や赤血球、血小板、血漿は体の中に戻します。成分採血は、専用の機械を用いて、患者さんの血液の中から樹状細胞療法に必要な白血球の一部(単球という細胞)を取り出しため、この操作に約2-3時間を要します。

 次に、とれた白血球に種々のお薬を加え試験管の中で培養し、樹状細胞に変化させると同時に6日間かけてこの樹状細胞を増やします。えられた樹状細胞は、治療開始まで超低温(−150℃)の冷凍庫で保存します。白血球の分離、精製、培養の過程は、細菌等の混入を防ぐため専用の無菌細胞調整室の中で行ないます。

 治療にあたっては、凍らせて保存してあった樹状細胞を溶かした後、樹状細胞に合成ペプチドを結合させ,その後、腋(わき)の下などに皮下注射します。1回の成分採血で、1クール(7回)分の樹状細胞を誘導できる予定です(患者さんの状況で,とれる細胞数は変動します)。治療は2週間に1回、計7回(7回で1クール)の注射を予定しています。

費用について

 鹿児島医療センターにおけるがん抗原を用いた樹状細胞がん免疫療法の治療費は、基本的に自費診療になるため、本療法及び本療法に伴った副作用に関る費用については、患者さんにご負担いただくことになります。また本療法を開始する前、あるいは途中で中止される場合においても、後で述べる成分採血(アフェレーシス)後はお支払いただいた費用の返還はできませんのでご了承ください。(樹状細胞療法では、成分採血後直ちに全てのワクチンを作製しますので、成分採血後の費用の返還はできません。)


以上、樹状細胞免疫療法について説明してまいりましたが、もう一度要点をまとめたいと思います。

  • 患者さんご自身が樹状細胞療法を強く希望され、治療について十分に理解されて同意していただくことが必要です。
  • 紹介医療機関があり、事前に詳細な治療経過や診療情報等を担当の先生から情報提供していただく必要があります。
  • 樹状細胞療法の治療期間では外来診療のみとなります。検査・薬剤などの樹状細胞療法以外の費用については、本院で行う場合はすべて自費となります。
  • 1コース(5〜7回)の樹状細胞の接種に要する期間(約3-4か月)は、通院が可能であることが必要です。
  • 治療費は一コース150-200万となります。
  • オーダーメードによる患者さん自身の樹状細胞の作製には、諸費用を前納していただく必要があります。
  • 約3時間の成分採血に耐えられる、良好な状態であることが必要です。
  • 病気の種類に応じた抗がん剤治療等を受けていることを基本としています。
  • 患者さん個々の病状や進行度により、樹状細胞療法の治療効果は異なります。樹状細胞療法のみで、がんが完治することはありません。また、効果が保証される治療ではありません。病気が極めて進行している場合、稀に免疫学的な変化により、かえって病状が増悪することもあります。
  • 先進的な技術である樹状細胞療法は、まだ研究段階の治療法です。医学的な安全性および有効性を明らかにするための臨床研究としての趣旨であることも十分ご理解されて、治療を希望していただくことが必要です。

最後に樹状細胞免疫療法治についてご相談についてのべます。

この治療については、現在の主治医の先生とも相談していただいて、ご理解をいただく必要が有ります。また、治療に関しての電話での直接のご相談は困難です。下記相談窓口で相談日の予約をとっていただきますようお願いします。

治療の責任者

  • 独立行政法人国立病院機構鹿児島医療センター
    副院長  花田修一

相談窓口

  • 独立行政法人国立病院機構鹿児島医療センター
    地域医療連携室 がん相談担当
    Tel:099-223-1151 FAX:099-226-9246