〒892-0853 鹿児島県鹿児島市城山町8番1号

血栓溶解療法(t-PA療法)

最近話題の血栓溶解療法とはどのようなものでしょうか。

脳卒中になってすぐにこの治療を受ければ、劇的に良くなる可能性があるとして、最近話題になっていますね。勿論当院でも行っていますし、これから説明するように、実際に劇的な効果が見られます。ただし全ての患者さんに行うことができる訳ではありませんし、逆にかえって悪くなる可能性もある治療法です。それでは、当院での実際の症例を元に説明しましょう。

1. 血栓溶解療法とは

脳梗塞は、脳に行っている動脈が詰まることによって、血液が流れなくなり、脳に酸素や栄養などが届かなくなってしまい、脳細胞が死んでしまう病気ですね。

図1 脳梗塞のいろいろ

図1 脳梗塞のいろいろ

それでは動脈をふさいでいるものを溶かしてしまえば、血液が再び流れるようになって脳梗塞が治るのではないか? このような考えから始まったのが血栓溶解療法です。この溶かすための薬がt-PA(アルテプラーゼ)です。平成17年10月に承認を受け、日本でも治療ができるようになりました。

t-PA(アルテプラーゼ)静脈注射による血栓溶解治療法

t-PA(アルテプラーゼ)静脈注射による血栓溶解治療法

ただし、問題もあります。

  1. 脳は血液がこなくなるとすぐに死んでしまいます。このため遅くとも3時間以内に治療を開始する必要があります。治療が遅れて、脳や血管が傷んでしまった後に血液が流れ出すと、効果がないだけでなく、今度は出血してしまい、脳内出血となって、逆に悪くなってしまう危険があります。
  2. t-PA(アルテプラーゼ)は、脳梗塞の血管だけでなく全身に作用しますので、他に出血しやすい場所があると、そこから出血する危険があります。

2. 血栓溶解療法の実際

当院で行われた血栓溶解療法の実際例をいくつか紹介します。

症例1:73歳男性

  • 主訴:左手足を動かさない、意識障害
  • 現病歴:12時10分、突然意識がおかしく、言葉を話せない、立ち上がれないなどの症状が出現。

このため救急車を依頼し、同日12時30分当院につきました。当院に来た後の経過は図2のとおりです。右端のNIH-SSは症状の強さを示す値です。

図2 来院後の経過

図2 来院後の経過

図3 血栓溶解療法の血管の再開通

図3 血栓溶解療法の血管の再開通

図4 血栓溶解療法前後のCT

治療の結果脳梗塞になるのを防げました。出血もありません。
図4 血栓溶解療法前後のCT

治療の結果、後遺症を全く残さずに退院されました。


症例2:73歳男性

  • 主訴:ふらつき、左片麻痺
  • 現病歴:午後6時入浴後、自分で服が着られなかった。めまい症状もあった。その後何とか夕食をとるも左手で茶碗を落とす症状などがあり、自家用車にて20時00分来院。
図5 血栓溶解療法前後のMRA

の中の動脈に血液の流れが戻っています。
図5 血栓溶解療法前後のMRA

図6 血栓溶解療法後のMRI

図6 血栓溶解療法後のMRI

3. 当院での血栓溶解療法の結果

平成19年2月現在、当院では11例の血栓溶解療法を行いました。治療の結果、殆ど障害が残らなかった人の割合を示したのが下の図です。幸い出血性の合併症は未だ1例もありません。

血栓溶解療法で殆ど障害を残さずに治った人の割合

血栓溶解療法で殆ど障害を残さずに治った人の割合

4. 血栓溶解療法を受けるためには

とにかく一刻も早く受診することです。

  • 遅くとも3時間以内に治療を開始する必要がありますが、このためには2時間以内に病院に来る必要があります。
  • 2時間以内に来ても、既に脳が痛んでいて、血栓溶解療法ができない場合もあります。到着が5分遅れれば、治療できる可能性が5%減ります!
  • 早く治療を開始すれば、それだけ良くなる可能性が増します。治療の開始が5分遅れれば、よくなる可能性が5%減ります!

なお、次のような方はこの治療が受けられません。

禁忌

既往歴

  • 頭蓋内出血既往
  • 3ヶ月以内の脳梗塞(TIAは含まない)
  • 3ヶ月以内の重篤な頭部脊髄の外傷あるいは手術
  • 21日以内の消化管あるいは尿路出血
  • 14日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷
  • 治療薬の過敏症

臨床所見

  • 痙攣
  • くも膜下出血(疑)
  • 出血の合併(頭蓋内出血、消化管出血、尿路出血、後腹膜出血、喀血)
  • 頭蓋内腫瘍
  • 脳動脈瘤
  • 脳動静脈奇形
  • もやもや病
  • 収縮期血圧(適切な降圧療法後も185mmHg以上)
  • 拡張期血圧(適切な降圧療法後も110mmHg以上)

血液所見

  • 血糖異常(<50mg/dL、または>400mg/dL)
  • 血小板100,000/mm3以下
  • ワーファリン内服中、PT-INR>1.7
  • ヘパリン投与中、APTTの延長(前値の1.5倍以上または正常範囲を超える)
  • 重篤な肝障害
  • 急性膵炎

画像所見

  • CTで広汎な早期虚血性変化
  • CT/MRI上の圧排所見(正中構造偏位)

慎重投与(適応の可否を慎重に検討する)

既往歴

  • 10日以内の生検
  • 外傷
  • 10日以内の分娩
  • 流早産
  • 3ヶ月以上経過した脳梗塞
  • 蛋白製剤アレルギー

臨床所見

  • 年齢75歳以上
  • NIHSSスコア23以上
  • JCS100以上
  • 消化管潰瘍
  • 憩室炎、大腸炎
  • 活動性結核
  • 糖尿病性出血性網膜症
  • 出血性眼症
  • 血栓溶解薬、抗血栓薬投与中
  • 月経期間中
  • 重篤な腎障害
  • コントロール不良の糖尿病
  • 感染性心内膜炎

5. 血栓溶解療法はどこでもできるのでしょうか?

血栓溶解療法を安全に行うために次のような指針が示されています。勿論当院は全てクリアーしています。

脳卒中診療体制の整備:以下の日本脳卒中学会の提唱する施設基準を満足する施設で治療を実施することが望ましい。

  1. 画像診断(CT、MRI)が24時間可能。
  2. 十分な人員と設備(stroke care unitまたはそれに準ずるもの)を有する。
  3. 脳外科的処置が迅速に行える体制が整備されていること。
  4. 治療実施担当医が日本脳卒中学会の承認する講習会を受講していること。急性期脳梗塞の診療実績が十分(発症24時間以内の急性期脳梗塞を年間50例程度以上診療している)である場合、本薬使用前の講習会の受講を必須とはしないが、できるだけ早期に講習会を受講することが勧められる。

脳卒中評価スケール

脳卒中評価スケールNIHstroke scale(NIHSS)などを用いた客観的な評価を行うこと。